サイレント
必要以上に小さいお弁当箱の中身を空にすると祥子は皆の期待を背負って踊り場へと向かった。

クリーム色の階段をぺたぺたと上って行くと、そこには既に床に腰を下ろした大悟が待っていた。

大悟の隣に座って祥子は壁に背を預ける。

「話って何?」

大悟とは保育園の時からほぼ毎日一緒にいるので二人きりでいても全く緊張感がない。
付き合い出した今でも恋人というよりは仲の良い兄妹みたいだった。

「うん。大悟って芹沢と仲良いでしょ?芹沢にお姉ちゃんいるか知ってる?」

「芹沢?」

大悟は不思議そうに首を傾げた。

「いや?確かいないけど。弟が一人いるって前に言ってたし」

「ふーん。そっか」

「何で?」

「ん?まあ、友達が知りたがってたからだけど。いないならいーよ。わざわざ呼び出してゴメンね」

祥子は聞きたいことだけ聞くと立ち上がった。
スカートのお尻を叩いて階段を降りる。

「祥子っ!」

たたん、と大悟が駆け足で階段を下りて来て祥子の肩を掴んだ。

「何?」と振り返るといつになく真面目な顔をして大悟が「あのさ」と鼻を掻いた。

「今週土曜さ、映画いかね?」

「あー。ゴメン、土曜無理。美佐子たちと約束してるし」

「……そっか」
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