サイレント
携帯小説で一のことを書くのも、終わりにしよう。
あんなものを書くからなおさら一の事が頭から離れない。

そう思いながら樹里はなかなか出ていかない一を振り返った。

驚いたことに一は先程と変わらず真っ直ぐに樹里を見下ろしていた。
そのことにたじろいで樹里は思わずさっと目を逸らした。

普通、こんな風に目を逸らされたらいくら子供でも何かを感じ取ってしまうだろう。

けれど一はそんな事を気にした風もなく、むしろ何も気付いていないかのように樹里を呼んだ。

「先生、お金返したばっかりでこんなこと頼むの、おかしいんですけど、またお金貸してもらえませんか?」

一瞬、聞き間違いかと思った。けれど一はもう一度言い方を変えて同じ事を繰り返した。

「絶対に返すから。誰にも内緒で貸してください」

「え?」

樹里は真っ直ぐ突き刺さる一の視線を意識しつつも一の顔をまじまじと見つめた。

目の前に立つ一は決してふざけている風には見えず、真剣な顔付きをしていた。

「俺、今どうしてもお金が必要なんです。貸してくれたら俺、先生が言うこと何だってする。だから」

突然、一が床に膝をついて頭を下げた。

「お願いします。貸してください」
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