サイレント
「えー。聞いたって教えてくれるわけないじゃん」

その通りだった。
いつもつるんでいるメンバーの中で1番度胸のある美佐子はすでに何度か芹沢に話しかけているのだけれど、毎回短い返答しかもらえずシャットアウトされている。

「じゃ、諦めるしかないね。それより来週の模試やばいんだけどワーク進んでないしー美佐子と愛週末うち来るんだから数学と理科ワーク教えてよねー!」

「えー。無理!祥子国語得意なんだからそれで点数稼げるじゃん!」

「あ、美佐子この前私がDVD貸してあげた時パッケージ汚したよね。あれ、お姉に借りた大事なものだったんだけどなー」

「うっ」

まずい、という焦りの表情を見せる美佐子を追い詰めるように祥子は難しい顔を作る。

「美佐子が汚したって知ったら美佐子うち出入り禁止だろーなー」

「わかったゴメン!数学でも何でも教えるから!」

美佐子が観念して両手を合わせる。
祥子は満足して笑った。

祥子の日常はいたって平和だ。

仲の良い友達に囲まれて、新しい一軒家に住んで、彼氏もいて。

考えてみれば人生の危機に立たされたことなんて一度もなかった。
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