サイレント
だから人の本当の痛みになんて触れたこともなかったんだ。



土曜日の朝、祥子は図書館へ向かった。
午後から美佐子たちが家へやって来るのでその前に図書館で借りていた児童書を返却しなければ、と思い家を出た。

学校では国語が得意で通っている祥子だが、趣味が読書だなんて事は誰にも知られたくなかった。

本を読むことが悪いとは思わないが、イマイチ自分のキャラに合わない。
読書というと真面目っぽいとか、暗いというイメージがついて回る気がして何となく敬遠されがちだ。

しかも祥子が好んで読むのは児童書だった。

余り同じ学校の子が来ない大学病院前の図書館へ入り、借りていた本を返却する。

カウンターの女の人がバーコードを読み取っている間に祥子は図書館を見渡した。

そういえば、愛が芹沢を見たというのもこの図書館だ。

図書館はぽつりぽつりと人がいるだけで静かだった。


まだ時間に余裕があるため、児童書コーナーをうろつく。
大悟なんかは少年漫画ばかり読んでいて、小説なんかにはまるで興味がない。

幼なじみなので大悟には読書好きだということを知られているけれど、大悟は祥子の読んでいるものの内容にだけは興味があるらしく、自分では読まない癖に粗筋だけを知りたがる。
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