サイレント
祥子は前から読みたいと思っていた一冊を手に取りテーブルへと向かうと、1番隅のテーブルに見覚えのある後ろ姿を見つけた。

祥子の心臓が跳びはねる。

真っ黒で少し伸びかけの髪の毛。
赤いロングTシャツにデニムという私服は何となくイメージと違った。

そして、その隣には栗色の長い髪の女の人がいた。
白いTシャツに少し太めのブレスレット。

後ろ姿だけで自分たちより遥かに年上だとわかる。

普段なら絶対にそんなことをしないのだけれど、祥子は勇気を振り絞って芹沢の正面の席に腰を下ろした。

芹沢はちらりと前に座る祥子を見たけれど、祥子の顔まで確認せずにまた問題集に視線を落とした。

なによ、気付かないわけ?

そんな芹沢に少しムッとしながらも祥子は芹沢の隣に座る女性を見た。

その人が自分を見ていると思ってなかったので、まともに目が合ってどきりとする。

長い睫毛、薄い眉、ピンクのチーク。

想像よりも若くて、可愛くて何故だかショックを受けた。

一瞬にして負けた、と敗北感を味わう。

化粧、してくれば良かった。

女の人は少し微笑むと手元の雑誌に視線を戻した。
耳にはイヤホンがついていて、iPodで音楽を聞いているみたいだった。
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