サイレント
狙いは薬指。

ここまで来ればプレゼントが何なのか、誰にだってわかる。

祖父から貰った少ない自分の小遣いで買えるのなんて、雑貨屋に売っている安っぽいのが精一杯だったけれど。

これを渡せば樹里が期待するのはわかりきっていた。

だからこそ今、卑怯な自分はこんなもので樹里を繋ぎ止めようとしている。

「ハジメくん……」

樹里の左手薬指に銀のリングがぴったりとおさまる。

「外したら、ダメだから」

まだ樹里の顔を直視できない。恥ずかしいわけじゃなく、本気で後ろめたい。

「うん……外さない」

「学校にも、してって」

「うん」

いるかもしれないライバル相手に堂々と戦えない。だから代わりにせめてもの、悪あがき。

樹里にはすでに「男」がいるんだって、誰が見てもわかるように。

それから、樹里に将来の約束をちらつかせるために。

これは最適で最強の武器。

「ハジメくん」

「何?」

「今、抱きしめていい?」

作戦はどうやら成功。

「……いーよ。誰も見てないし」

言い終わらないうちに樹里に抱きしめられた。

この数ヶ月、ずっと手を繋ぐだけだった一達にとって久しぶりの抱擁。

「大好き」

久しぶりに聞く樹里からの告白。
< 230 / 392 >

この作品をシェア

pagetop