サイレント
この言葉も、ずっと聞きたかった。

「先生、何もしないから今日、泊まってかない?」

ただ隣で眠るだけで構わない。
一は樹里の背中に腕を回して耳元で囁いた。

樹里が驚いたように一を見つめる。

「嫌?」

「嫌なわけないよ。でも、いいの?今日図書館で会った女の子の前でだって、あんな風に手繋ぐし。今日のハジメくんいつもと」

「いつも通りだって。いつもは我慢してるだけ」

うっかり気を抜けば目の前の唇にキスをしてしまいそうだ。

気をつけて樹里から離れ、ソファに座る。

「今日くらい別にいいじゃん。あいつだって多分口固いし」

「ふぅん?」

少しだけ樹里がムッとした顔になる。

「何?」

「あの子、仲良いの?」

「まさか。まともに話したの今日初めてだし。第一うちのクラスの男子と付き合ってるはず」

「本当に?」

何だ、嫉妬か。
一は急に気が抜けて横になった。

「嘘つく理由がない。あいつに興味ないし」

ふっと影がさしたかと思ったら樹里が真上から一を見下ろしていた。

「来月のプレゼント、私も虫よけになるもの選ばなきゃ」

真面目な顔をして樹里が言う。

「どーぞ。好きなだけ」

樹里がそれで安心ならプレゼントなんて正直何でもよかった。
< 231 / 392 >

この作品をシェア

pagetop