サイレント
加藤に呼び止められたのは次の週の水曜日だった。

「芹沢、聞きたいことがあるんだけど」

美化委員である一は放課後、担当の教師に頼まれて来月にある校内大掃除のための洗剤等の補充をしている所だった。

一つ一つ中身が入っているか振りながら確認して軽いものを見つけては継ぎ足す。

「何?」

一は作業の手を止めずに聞いた。
聞かれることなんて一つしかない。

月曜からずっと加藤が睨み付けるようにして自分を見ていたことには気付いていた。

加藤は一の横にあった椅子にどん、と腰掛けて足を組む。

「あの人、誰?」

ほら来た。

「あの人って?」

「図書館で一緒にいた人に決まってるじゃんっ」

加藤は相当ご立腹な様子で、語尾をあらげる。

「ああ」

少しだけ考える。

「見てわかんなかった?」

「は?」

「あの人が俺の何か見ててわかんなかった?」

一はわかりやすいように言い直した。
最後の一つに洗剤を補充して段ボール箱の中に戻す。

「手、繋いでた……」

ぼそりと呟いた加藤を振り返ると加藤は真っ直ぐに一を見つめていた。

「お前も大悟と手、繋ぐだろ」

加藤の頬がかあっと赤く染まる。

「別に、大悟とは繋がないしっ」
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