サイレント
「何で?」

「何でってそんなの」

「付き合ってんじゃないの?」

段ボール箱を抱え、それを倉庫の1番奥の棚の上に乗せる。

「……付き合ってるの?あの人と」

そのまま倉庫を出ようとした所で加藤に学ランの袖を引っ張られた。

「年上じゃん」

「年上だと悪いわけ」

「だって」

「加藤には関係ないだろ」

引っ張られた袖を振り払うようにして一は加藤から離れる。

「じゃ、俺もう帰るから」

きっとこれで加藤には嫌われる。
嫌いになればわざわざ一に関わってこないだろう。

「待って!」

けれど加藤はそれでも一を呼び止めた。

振り返らずに立ち止まる。

「いつから?」

「去年。もう結構長い」

「……どっちから」

消え入りそうな声だった。

「向こうが先に俺を好きだったけど、けしかけて実際に手を出したのは俺の方」

言いながらどうして加藤にここまで話すのか自分でも不思議だった。
一は別に自分のことを他人に話したがる性格ではないし、ましてや樹里とのことはなるべく秘密にしておかなくてはいけない。

「手を出すって……」

「加藤も彼氏がいるんだからそれくらいわかるだろ」

「な……」

手も繋いでいない加藤たちならそこまで進んでいるわけがないことくらい誰にだってわかる。
けれどあえて一はそういう風に言ってみた。
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