サイレント
突然大悟が祥子の手首を掴んだ。

その力があまりに強く、乱暴で祥子は思わずびくりと体を硬くした。

「だ……いご?」

「俺が先週、結局誰と映画行ったか知ってる?」

鋭い瞳で祥子を見据える大悟が何だか知らない男の子に見えた。
祥子の背筋に緊張感が走る。

「知らない。聞いてないもん」

「隣のクラスの白石麻衣子」

一瞬、何を言われたのかわからなかった。
足元のゴミを見つめ、もう一度大悟の顔を見る。

「ごめん。意味わかんないんだけど」

白石麻衣子は祥子と同じバスケ部で、そこそこ仲も良い。
けれど大悟と映画に行っただなんて麻衣子は一言も言ってなかった。

「告られたんだ。映画見た後に」

何もかもが初耳だった。
不思議なことに芹沢の時とは違って怒りは湧いてこない。

それを察したのか大悟が怒ったように「何で怒らないんだよ」と言った。

大悟が怒るのも無理はない。

こんな場合、普通なら嫉妬したり責めたりするべきなのに。

「もう、わかった」

何がわかったのかわからないけれど、大悟は一人納得したように言い捨てると祥子を引っ張ってビニールハウスの中へとずんずん入って行った。

祥子のビーサンが途中で片方脱げても大悟は止まらない。
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