サイレント
ハウスの1番奥まで来たところでようやく大悟は祥子を離した。

「こんなんで俺ら、付き合ってるって言わないよな」

放課後に聞いた芹沢の言葉を思い出す。

付き合ってるなら手を繋いだり、それ以上のことをするのが当然みたいな芹沢の言い草が気に入らない。

第一、田舎の中学生でそこまでの付き合い方をしてる方がおかしいんじゃない?と今なら言い返すことが出来るのに。

何だか悔しかった。

私だってそれくらい。
小さな反抗にも似た感情が祥子を支配する。

大悟なら、小さい頃から仲もいいし、怖くない。

それくらい。

「じゃあ、付き合ってるっぽいことしよっか」

祥子は自分の気が変わる前に行動に移した。

大悟の肩を掴み、顔を寄せる。

ふにゅっと、思った以上にそれは柔らかかった。

「これでいい?」

キョトンと固まる大悟に祥子は言った。

ほら、こんなこと。どってことないじゃん。

「じゃ、もう帰ろ」

何となく達成感、いや、満足感を味わって祥子はくるりと大悟に背を向けた。

素足で踏み締める土の感触がひんやりとしていて気持ちがいい。

ちょうどハウスの中間に転がっていたビーサンに足を入れ、ハウスの出口を目指す。
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