サイレント
月明かりと街灯の明かりだけの薄暗いハウスの中を真っ直ぐ突き進んで行くと、少し遅れて大悟が追い掛けて来た。

「祥子っ」

肩に手をかけられて振り返る。

「何だよお前、からかってんのかよ」

「からかってないよ」

祥子はにっこりと微笑んだ。いつもの人気者の祥子を演じる。

明るくて裏表なく、悩みなんてなさそうな人間を演じるのは祥子にとって息をするみたいに自然なことだ。

「第一、私は大悟だから付き合ったんだよ」

大悟が喜びそうなことを言葉にする。

「私は大悟の彼女だよ」

大悟の瞳の色が変わる。
大悟は感情がすぐ顔に表れる。
大悟の瞳は祥子が好きで堪らないと語っていた。

「祥子、もっかいしていい?」

「いいよ」

躊躇うようにぎこちなく大悟の唇が近づいてくる。

私、何で今、大悟とキスしてるんだろう。

ぼんやりとそんなことを考えながら祥子は瞳を閉じた。

二度目のキスをしながら祥子の頭の中は芹沢のことばかり考えていた。

可愛い年上の彼女と芹沢。

幸せそうな二人が憎らしかった。

誰かを嫉むなんて人生初。



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