サイレント
「祥子!休みの日くらい部屋の掃除しなさいよ」

ベージュピンクの絨毯を敷いた部屋の床に寝転んで雑誌を眺めていると掃除機を抱えた母がいきなり部屋のドアを開けて入って来た。

「隣の大悟くんなんて塾に行きはじめたっていうのにあんたは部活引退してから休みの日はゴロゴロしてばっかり。大悟くん見習って少しは勉強したらどうなの?」

甲高い声で言いながら掃除機を祥子の部屋の中央に置く母に祥子は「うーん」と生返事をする。

「来週から夏休みだし、あんたも塾行く?」

「遠慮しとく」

「家庭教師は?」

「もっと遠慮しとく。ってか塾行かなくてもN高とかなら余裕だし」

昔から祥子の両親は勉強についてあまりとやかく言わない人種だった。
よっぽどの点数を取らない限り怒られることもないし、だからこそ祥子はのびのびと学校生活を楽しむことができる。

母は他人に影響を受けやすいので近所の誰かが塾や習い事に通い始めると祥子にも勧めるけれど、
それも祥子が嫌だとはっきり断れば無理強いすることはない。

掃除機を置いて一階に戻って行った母はきっと夜になれば塾のことなど忘れている。

脳天気な母に適当な父。

祥子はまさにそんな両親から生まれた。
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