サイレント
芹沢の家はさほど苦労せずに見つかった。

大学病院から徒歩で15分程の所に建つアパートの二階が芹沢の家だった。

自転車置き場に芹沢の自転車を見つけて少しだけ緊張してくる。

祥子は来る途中に買ったスィートポテトの入った紙袋をギュッとにぎりしめてアパートの階段を上った。

三番目のドアの標札に「芹沢」と油性マジックで書かれていた。

インターホンを押す。

いきなり連絡もなしに家に来られたら引くかもしれない。

そう思うと不安になってくる。

なかなか開かないドアに「帰ろうかな」と背を向けたところで背後でガチャリとドアの開く音がした。

「加藤?」

掠れた声で呼ばれて祥子は不覚にもドキリとした。

「あ、芹沢いたんだ。出てこないからいないのかと思った」

必死に何気なさを装いながらくるりと振り返る。

芹沢は上下黒色のスウェット姿だった。

「わり、寝てた」

「あ、そうなんだ」

気のせいか普段より不機嫌そうな様子で芹沢がドアにもたれて祥子を見ている。

「突然来てごめんね。たまたま近くまで寄ったから来てみたんだけど」

「あ、そ」

会話が続かない。

誰かと話していて何を話せばいいのかわからなくなることなんて今までなかった祥子には今の状況は非常に厳しい。
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