サイレント
手土産に持って来たスィートポテトの袋を何となく背中に隠した。

どうしよう。

何を話したらいいんだろう。

勢いだけで来ちゃったけど何も考えてなかった。

自然と顔が俯く。

芹沢は猫じゃないんだから餌付けなんて出来るわけがない。
家を出る時の勢いが嘘みたいに引いて、今は萎んだ風船のようになってしまっていた。

「ゲホッ」

黙ったままその場に突っ立っていると芹沢が咳をした。

祥子ははっとして顔を上げる。

「風邪ひいてんの?」

「多分。悪いけど立ってんのもしんどいから、用ないなら帰ってくれる?うつったりしても困るし」

「あ、うん。ごめん」

「じゃ」と言って芹沢がさっさとドアを閉めようとする。

「あっ、ね、ねえ!!」

祥子は閉められるドアを寸前の所で掴んで芹沢を呼び止めた。
中で芹沢が怪訝な顔をする。

「何?」

「えと、その。芹沢お父さんと二人暮らしでしょ?ご飯とか平気?何か手伝おうか?」

「……飯なら昨日……彼女が作り置きしてくれたから平気」

「あ、そう。そっか。そうだよね。じゃ、帰るね」

彼女。

当たり前だ。芹沢が風邪を引いたなら真っ先に駆け付けて看病するのは彼女の役目。
突然家に押しかけたただのクラスメイトである祥子に芹沢が何かを頼むわけはなかった。
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