サイレント
意外な言葉に一は少々面食らった。

「家に来るほど仲良い女の子ができたんだ?」

らしくない。樹里がこんな子供っぽい態度を取るなんて。

「ちょ、待ってよ。仲良くないし。今日も勝手に向こうが来ただけで」

「でも、追い帰したりしなかったでしょ?」

「帰したよ。身体も怠かったし、玄関先で会話しただけだし」

「風邪じゃなかったら家に入れてたんじゃない?」

意地が悪い言い方で樹里が言った。
一がこっちに引っ越してから一度も喧嘩をすることがなかったため、一は一瞬言葉に詰まる。

それを図星と捉えたらしい樹里は眉間の皺をさらに深くする。

「先生は俺のこと信じてなかったわけ」

疑われたことより、嫉妬されることより、そのことこそが一にとって重要だった。

樹里にとって一とはそんなに薄情で尻の軽い男なのか、と。

「……信じてるよ。信じたいよ。でも」

樹里の瞳は泣いてもないのに既に真っ赤だ。

つやつやに輝く赤い唇を悔しそうに噛んでいる。

「でもやっぱりハジメくんは14歳なんだもん。この先私だけを想い続けてくれるなんてこと、不可能だとしか思えないんだもん」

「明日で15歳だよ」

ベッドから下りて立ち上がる。
樹里の前まで行くと樹里は怯えたような瞳で後ずさった。

「私はもう26歳のおばさんだよ」

「だから何?そんなことはとっくの昔に解決したんじゃなかった?俺が先生を選んだ時点で」

樹里の左薬指には先月一がプレゼントした指輪が光っていた。
その手を取って樹里の薬指に口づける。
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