サイレント
「セリザワー」
放課後、一目散に帰路につこうと自転車に跨がると背後から声をかけられた。
ヘルメットを手に振り返るとそこにいたのは加藤だった。
「何?」
「もう帰るの?」
「うん」
一応校則で定められているので白いヘルメットを装着し、ハンドルを握った。
加藤が一の自転車の前に立ちはだかるように移動する。
「明日から夏休みじゃない?芹沢は夏休みどっか行ったりするの?」
「別に?地元には戻るけど基本受験生だし」
「……ふーん」
片手に黒い鞄を下げた加藤もどう見ても帰宅する所だ。健康的な適度に日に焼けた足がスカートから真っ直ぐ伸びている。
「そういえばこないだは悪かったな。変なこと頼んで」
「え?ああ、うん。全然」
加藤からもらったスイートポテトは自分で食べるのも樹里に悪いような気がして結局食べずに捨てた。
近所に知り合いがいればあげたのだが、生憎こっちにそんな知り合いなんていない。
クラスメイトにあげようものならそのことが加藤の耳に入るかもしれない。
人からもらったものを捨てるというのはなんとも嫌な気分だった。
その罪悪感もあってか話しかけてくる加藤を無下にあしらうことが出来ない。