サイレント
一がゆっくりと自転車を漕ぎ出すと加藤はその隣をついてきた。

「芹沢のお父さんて何か病気?骨折とかじゃ、ないよね」

「ああ、うん」

アスファルトから放たれる熱気が景色を揺らす。

「癌」

一は正直に口にした。

一瞬にして隣にいる加藤の空気が凍り付いたのがわかった。
息をのんで足を止めた加藤を少し前に進んでから振り返る。

「けど、手術は成功したし、今すぐ死ぬとかそんなんじゃないから。重く受け止めんなよ?」

人から同情されるのは好きじゃない。

一は決して自分を可哀相だなんて思っていない。

加藤はこくりと頷くと何故だか嬉しそうににへらと笑った。

「何だよ」

「え?あ、うん別にっ」

「あ、そ。じゃあな」

ペダルの上で立ち上がって体重をかける。

「あ!待って!!」

どちらかの足を踏み込めばこのまま颯爽と自転車を走らせることが出来る体勢だ。

「何?」

「今の話さっ、芹沢誰にも言ってないでしょ!?」

「うん」

「なんで私には話してくれたのっ!?」

なんで、と言われても答えようがなかった。
加藤に話したことに理由なんてない。ただ口が勝手に動いただけ。たまたまその相手になったのが加藤だっただけ。
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