サイレント
「別に理由なんかないけど?」

加藤の頬は紅潮していた。

「ふーん?」と首を傾げ、上目使いに一を見上げてくる。

一はそんな視線を避けるように何となく顔を逸らした。

スイートポテトの話になる前にさっさと帰ろう。

まあ、聞かれたところで無難に「おいしかった」と嘘の感想を述べておけば済む話なのかもしれないけれど。

生憎嘘はこれ以上つきたくない。

一は樹里とのことでこれまで何度となく友人たちに嘘をついてきた。

人生には嘘をつかなきゃならない時もある。けれど、嘘に慣れてしまいたくはない。

平気な顔をして人を騙せる人間にはなりたくない。

本当は樹里にだって自分のことで周りに嘘を言わせたくない。
嘘が下手な樹里ならなおさら。

「芹沢さあ」

「え?」

「また話そうよね。色々。そうだ、今度はうちに来なよ。大悟ん家私の家の隣だし皆で遊ぼうよ。勉強の生き抜きにさ」

「お前は生き抜きばっかしてそうだけどな」

一が小ばかにしたように言うと加藤が一の脇腹目掛けて右ストレートをかましてきた。

思わず呻く。

「お前手ぇ早過ぎ……女のくせに」

「うるっさい」
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