サイレント
幸い、席を立つ際に一応バッグは持って来た。

周りは我を忘れるほど飲んだくれている酔っ払いばかり。このまま樹里がトンズラしたところで誰も咎めたりはしないだろう。

「ちょっと静かな所で語りません?」

尾垣は樹里の手首を引いて歩き出した。

「ちょっと、」

カラオケ店を出てタクシーを拾い、行き先を告げる。
尾垣が口にしたのは学校だった。

樹里は有無を言わさず無理矢理車内に押し込まれ、尾垣は目をキラキラと輝かせ、少年のように楽しそうに笑っていた。

「夜の学校って何かワクワクしません?」

学校の前でタクシーを降りた尾垣は校庭に向かうとテニスコートを囲う金網に寄り掛かって座った。

「私帰っていいですか?正直眠いし、帰って寝たい」

「またまたー。語りましょうよー。金城センセーの話聞きたいんですよ俺。俺と金城センセーの仲じゃないっすか」

「どんな仲ですか。ただ職場が一緒なだけじゃないですか」

「うっわ。案外毒舌。うそーん」

尾垣はケラケラと笑いながら尻ポケットからライターとタバコを取り出して火をつけた。

ふう、とゆっくり煙が吐き出される。

グラウンドでタバコを吸うなんて教頭に知られたら説教ものだ。
< 261 / 392 >

この作品をシェア

pagetop