サイレント
固い地面の感触が背中に伝わる。

「やだっ。触んないでよ!」

いい加減にして。
何で私ばっかりこんな、嫌なことばっかり。

「センセー。好きですよ、本当。だから、笑って?」

笑えるはずがない。
完璧こいつは酔ってる。

「芹沢ばっかり。ずるい」

狡くない。
ハジメくんはなんにも狡くない。

「ハジメくんっ」

樹里の声は闇に吸い込まれて掻き消される。

尾垣は最低だった。

本当にもうダメだと樹里が諦めて泣き出した時、何事もなかったかのように尾垣は笑った。

「何泣いてんすか。金城センセ」

強く押さえ付けられていた手が自由になっても動く気力は残っていなかった。

「本気で俺が最後までやっちゃうと思った?」

ふふっと穏やかに笑う尾垣が信じられなかった。

「いくらなんでも俺、そこまで人間腐ってないですよ。女の子に不自由してないし。先生の口から芹沢の名前が聞けたらそれで十分です。あ、痕は付けちゃいましたけど」

尾垣はポケットから取り出したハンカチで樹里の涙を拭き取ると「ごめんね」と言って樹里を起き上がらせた。
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