サイレント

three

「ただいまー」

この家に足を踏み入れるのは久しぶりだった。

「お帰りなサイ」

リビングからすぐに母の姿が現れ一を迎える。

「タクは？」

「プール。100メートル泳げるようにシタイんだって。ご飯食べる？」

「ううん。いい。ちょっと部屋で休む」

「ソ？」

一はそのまま階段を上って自室へと入った。

一の部屋はほぼ変わらず引っ越した時のままになっていた。

ベッドに倒れるようにして寝転び、エアコンをつける。

夜には樹里と会う約束をしていた。
ここのところずっと勉強漬けの毎日を過ごしていた一は急に眠たくなって目をつむった。

エアコンの冷気が身体の熱を奪ってゆく。

「樹里……」

一はいもしない相手の名を呼んでそのまま眠りについた。
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