サイレント
きっと樹里にはわからない。

一からしたら両親とも日本人で、嫌々勉強していた樹里の方が眩しい。
相沢のことも、心の端ではいつも羨ましかった。

「ハジメくん。でも私、そんなコンプレックスを含めてハジメくんが好きだよ。好きっていうより、」

一瞬樹里が言葉に詰まる。

ぴたりと合う言葉を探すように川の向こうを見つめる。

一発目の花火が打ち上がるのと、樹里が「愛おしい」と呟いたのはほぼ同時だった。

暗がりの中、花火の光に照らされた樹里の横顔はそれこそ「愛おしい」という言葉がピッタリなくらい切ない表情をしていた。

紺色の空に蝶やハート、オーソドックスな丸い花が次々と現れては消える。

はかないからこそ美しい。

花火が終わる瞬間は悲しくて寂しくて、好きじゃない。だから一はいつも花火大会が終わる前に会場から去るのが好きだ。
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