サイレント
その言葉の意味を考えるより早くコツコツ、と窓ガラスがノックされ樹里は振り返った。

「『どーも』」

受話器からと電話をあてているのとは反対の耳からと、若干ブレて声が重なった。

目の前には携帯片手にニッコリと微笑む尾垣の姿。

声も出なかった。

「この車見つけてまさかと思ったら本当にいた」

「……なんで」

「ん?ああ、連れとちょっと遠出しよってなって。金城先生こそこんなとこまで来るなんて意外っすね」

一がいないことにホッとするのもつかの間、尾垣は樹里の車の後部座席に乗り込んで来た。

「金城先生は誰と一緒?本当に一人ってことないっしょ?あ、でも先生運転ってことは女友達か」

「うん、そう。今友達トイレ行ってるから」

「あー。マジで?俺の連れもなんですけど、トイレすごい順番でしたよ。あれじゃあしばらく時間かかりますね」

暢気な声で話す尾垣を尻目に樹里は携帯を開き、一にメールをうつ。

『こっちから連絡するまで車に戻って来ないで』
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