サイレント
病院の処置室から出て来た一は頭に包帯を巻き、口元には大袈裟なガーゼを当てられていた。

尾垣はまだ出てこない。

樹里と共に廊下のソファに座っていた警官は一に一つ隣のソファへ座るよう声をかけた。

「君、えーと。芹沢……一っと。芹沢くんは住所は?歳はいくつ」

手帳を開いて刑事が問う。

すぐ傍にいる樹里は生きた心地がしなかった。

「−−県−−市。15歳」

口を開けないのか、一はもごもごと億劫そうに答える。

「ほぅ。わざわざ隣の県から来たのか。15ね。中学?高校?」

「……中学」

「今日は誰と一緒に来た?親か友達か」

「……」

「何で来た。電車?」

一は答えるのをやめて刑事の一方的な質問が廊下に響く。

「何が原因で相手を殴った。お前から手を出したって話だけど」

樹里は耳が痛かった。
さっきからずっと一と話すことも出来ず、他人のふりをするしかない状況が辛い。

まだ何一つ弁解も出来ていないのだ。
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