サイレント
「あいつが気に入らなかったから」

「気に入らないって……初対面だろう?知り合い?」

言いながら刑事が樹里を見る。どうやら樹里にも確認しているらしい。

嘘をついたってどうせ後で直ぐにばれる。

「……生徒、でした。今は違いますけど」

樹里が正直に答えると一は目を見開いた。

「生徒って……あんた教師かい」

「はい……えっと、彼も、ですけど」

「て、ことは。芹沢くんが前の学校の先生を気に入らなくて殴ったと。成る程ありがちだねえ。今の子は全く……」

呆れたようにため息をつくと刑事は立ち上がった。

「ちょっと、電話してくるから先生この子みててくれます?知り合いなら安心だ。まさかあなたにまで手を出さんでしょう」

「はい。大丈夫です」

樹里が答えると刑事はやれやれと頭を掻きながら病院の外へと出て行った。

廊下に一と二人きりになる。

一は何も言わずじっと床を見つめていた。
その横顔は静かに怒っていた。

「ハジメくん……大丈夫?」
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