サイレント
一の話はこうだった。

日本語が不自由な母と仕事で忙しい父は数年前からうまくいっておらず、去年の冬頃から父は別の場所にアパートを借りて暮らすようになった。

母はずっと専業主婦をしており、父が出ていってからも父からの僅かな生活費をやりくりして生活する日々が続いており、けれどその父からの生活費もだんだんと金額が少なくなり、二ヶ月前にとうとう振り込まれなくなった。

そして一ヶ月前、母は一万円だけを子供達に残して姿を消した。

「自分の貯めてた小遣いも無くなってさ、弟の飯も買えねえし、正直学校やめて働くしかないかと思ってた」

全てを話し終えると一は赤く充血した目をしながらボタンの取れかけたシャツの袖を引っ張り、俯いた。

「ちょっと待ってねえ、それって、お父さんの連絡先は?こんなの、私からお金借りて解決することじゃないじゃん。警察とか、学校の担任の先生とかに相談した方がいい、」
「嫌だ!」

慌てて立ち上がろうとした樹里の腕を一が力一杯引っ張った。

「親父なんか、職場に電話したけど家賃だけは払ってやるってそれだけでそれっきり連絡もよこさねえし、警察や担任なんかに言ったら施設とかに入れられるのがオチだろ?どうせ中学なんて後一年ちょいだし。そしたら弟食わせるくらい自分で稼ぐ」
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