サイレント
一の不安をよそに樹里は妙に清々しい顔をして目覚めると一の顔を覗き込んで笑った。

「酷い顔」

そう言った樹里は一の額に一つキスを落とすと一を家まで送ってくれたのだった。

「もう夏休みだし、ハジメくんも本格的に受験モード突入だし。これから受験が終わるまであんまり会えないね」

一が車から降りるときの樹里の言葉。

確かに。

今日からは一分一秒無駄にせず勉強しなくちゃならない。

ゆっくり会えるのは昨日がラスト。

にもかかわらずあんなことになって。

そもそも樹里を一人にした一が悪いというのに、逆に心配させて、庇ってもらって。

心底情けなかった。
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