サイレント
それから一は毎日受験勉強だけに専念して問題集と向き合う日々に明け暮れた。

樹里との電話は月1になり、会うことは殆ど無くなった。

けれど、早く卒業して目的の高校へ行くためには仕方がないし、樹里もわかってくれている。

そう思うと焦りも危機感もなく、勉強に打ち込めた。


「なあ一。俺のネクタイ知らない?紺のストライプのやつ」

CDを鳴らして英語のリスニングの問題をしていた一に父が尋ねて来た。

「あー、それならクリーニングに出したまま。もう出来てると思うから取りに行ったら?駅前のトコだし」

CDを一時停止して一は問題を解く手を止める。
図書館で勉強するよりも自宅でする方がなんだかんだ言って能率が良いことに気がついた一は二学期以降学校以外の時間を殆ど自宅で過ごしていた。

「えー。この雪の中俺にクリーニング屋まで歩けってか?」

「嫌なら別のしてけば。まだ他にいっぱいあるだろ」

「そーだけど。明日はアレつけてきたいんだよ」

「何で?」

父は無事仕事復帰して入院前の生活を取り戻していた。

もちろん完璧に安心出来るわけでなく、今も薬は飲んでいるし定期受診も必要だけれど。
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