サイレント
「何でって……別にアレだよ。深い意味はないけど」

いつもは憎たらしいくらいぺらぺらと澱みなく話す父が珍しく口ごもった。

「誰かに会うの?」

「ああ、まあ」

こういう時はたいてい相手は一人。

「いつの間に母さんと連絡取れるようになったわけ。ってか電話とかしてたんだ」

図星だったんだろう。父は罰の悪そうな表情で一から目を逸らした。

「まあ、シャーペンの芯買いに行くついでに取ってきてもいいけど。そのかわり私立の受験まで後二週間だから夕飯当番ずっと親父な」

問題集を閉じて一は壁際に置いてあった鞄から財布を取り出す。

父は「わかったよ」と言いながら一に背を向け、そのままトイレへと姿を消してしまった。

外は断続的に雪が降り続き、もう薄暗かった。

防水仕様のスニーカーで駅前までの道をゆっくり歩きながら一は樹里に電話をかける。

勉強の合間に電話をかけることが多いのだが、樹里の携帯は最近よく留守電になっていて繋がらない時がある。

プッ、プッ、プッ……プルルル

『もしもし』

受話器の向こうから樹里の声が聞こえて来てホッとする。
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