サイレント
「先生、今電話大丈夫?」

『え、ああうん。大丈夫』

受話器から聞こえる樹里の声は少し聞き取り難かった。
ざわざわとしていて、どこか外にいるのだとわかる。

『もう少しで私立だね。風邪とか引いてない?』

「うん平気。先生こそこの時期大変なんじゃない?風邪引いた生徒が保健室に溢れちゃってさ。うつらないよう気をつけないと」

『……そ、だね。仕事上風邪引いた人達にはどうしても会うから。でも今の所大丈夫だよ』

「ならいいけど」

ここの所樹里との会話の途中、妙な違和感を覚えることが多い。

今も何だか変な感じがした。

どこがどう変なのか具体的には言えないけれど。

『そうだ。この前神社で学業成就のお守り買ってきたから、ハジメくんとこに郵送するね』

「え、本当?」

クリーニング屋の前まで来て足を止める。

「ねえ、そのお守りさ。出来れば直接受け取りたい。1分でも5分でもいいから顔も見たいし」

もうどれだけ樹里の顔を見ていないか一は指折り数えてみた。
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