サイレント
吐く息が白く、指先が冷たい。
樹里の暖かい手を握りたかった。

『んー、でも私今ちょっと忙しくて時間取れないかもしれないし……』

「何なら俺がそっち行くよ」

『でも、ハジメくん今大事な時期だしこっちまで来て風邪引いたら大変だし。それはやめて』

そう言われるとこっちとしても弱かった。
樹里が本気で自分を気遣っているのは声のトーンからも明確で、その気持ちは嬉しい。

けれど、

「でも俺、やっぱ会いたい。先生に会ったら頑張れる気がする」

『……』

樹里がいるのは病院だろうか。
小さく呼び出しのアナウンスが聞こえた。

「だめ?」

これでだめだと言われたら正直くじけそうだ。

受験にではなく、樹里との距離に。

ハジメは樹里の返事をじっと待った。

傘に雪が積もり、重みが増す。

歩道は除雪された雪で埋もれているため一は自然と車道に立つことになり、車が一を避けて通り過ぎてゆく。

一カ所だけ壊れた溶雪装置から一メートル程水が噴水のように吹き出していた。
< 298 / 392 >

この作品をシェア

pagetop