サイレント
「稼ぐって……卒業するまでは?どうすんの?もし、このままお母さんが帰って来なかったらとか、心配でしょ?」

「だから先生に金借りたんだろ。心配しなくてもちゃんと返す」

「そういうこと言ってるんじゃなくて」

「じゃあ何だよ。こんなことバレたら責任取れないから逃げたいとか?」

「違うよ。私はただ」
「先生も他の大人と一緒かよ」

樹里の言葉を最後まで聞きもせず幻滅したように言った一の言葉がズキン、と樹里の胸を突き刺した。

一の樹里を見る目が、自分を軽蔑しているようで目を逸らした。

「……責任取りたくないって言うなら金、貸してくれなくてもいいよ。先生が貸してくれなきゃ別の人に借りるだけだし」

樹里は膝の上に置いた手をギュッと握った。
どうしよう。どうしたらいい?

「先生は今の聞かなかったフリしてればいいよ。帰って」

一はテーブルの上の封筒を樹里に押し付けて立ち上がった。
樹里はそれを握ったまま、何も言い返すことも出来ずに床を見つめる。

「帰んないの?」

冷たい声だった。
樹里は力無く立ち上がって玄関へ向かう。
樹里が靴を履くのを一はリビングダイニングの扉に寄り掛かりながら見守っていた。
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