サイレント
「……知ってる。だからびっくりした」

樹里はそう言うとまじまじと祥子を見つめて来た。
その視線にたじろいで思わず目を逸らしてしまう。

「仲良いんだね、ハジメくんと」

「まさかっ!私なんて芹沢の眼中にないってか、存在感0に決まってるし!」

祥子は慌てて否定した。芹沢が唯一心を開いている樹里からそんなことを言われると恐縮どころか恐れ多すぎて申し訳ない。

「芹沢なんて、ほんと、樹里さん以外興味ないってゆーか……」

「……そんなことないよ」

「いやいや、本当にっ!」

祥子は大きく手を振って全力で否定した。

「だったら……幸せだよね。私」

「はい。もう本当にっ!」

勢いよく肯定して樹里を見て、祥子は驚いて声も出なくなった。

ポロリと。

まるで宝石が零れ落ちるみたいに、窓の外を見つめる樹里の瞳から綺麗に涙が流れた。

「本当、ハジメくんが私の気持ちに答えてくれるなんて……奇跡みたいだと思った」

涙を隠すように樹里は両手で顔を被い、下を向く。

樹里の左薬指にはシルバーリングが光っていた。

一体芹沢はどんな顔してその指輪を買ったんだろう。

多分祥子が一生見ることのない顔。
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