サイレント
「そんな先の心配、必要ない。芹沢だって、私も、だけど。大人が思う程いつまでも子供じゃない」

「……私も昔はそう思ってた」

「だったら」

樹里の手首に触れていた祥子の手を樹里が反対の手で掴んだ。

「私、弱いから。もし、ずっとハジメくんが私を好きでいてくれたらそれは、大人になって再会してからまた始めればいい。けど、それまでの数年は一緒にいない方が多分、お互いにとって最善だと思うの」

「そんなの……」

その間にどちらかが別の人を好きになったらどうするの?

「ハジメくんが、寂しそうだったら、あなたが傍にいてあげてね。私よりよっぽど、自然でお似合いだから」

残酷だ。

祥子のどこがお似合いだって言うんだろう。

友達にすらなれそうにないのに。

樹里と同じ土俵に立つことも出来ない。でも。

「それで芹沢が私を好きになっちゃったら……どうするの?平気なの?」

樹里が泣きながら笑う。

「平気なわけないでしょ。嫉妬でおかしくなって死んじゃうよ」

だったら何故そんなことを言うんだろう。

大人は皆マゾなのかもしれない。
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