サイレント

one

「はい。お疲れ様でした」

田舎の小さな個人病院の診察室で患者の血圧を計り終えると樹里は受付に戻った。

「あ、樹里さんお疲れ様です」

受付でカルテの整理をしていた鞠は樹里が来たのに気がつくとさっと立ち上がってコーヒーを入れてくれる。

鞠はここの医療事務をしていて短大を卒業したばかりの若くて可愛い女の子だ。

肩までのボブをかなり明るい色に染めている。

樹里は鞠の入れてくれたコーヒーを一口啜ってほっと一息ついた。

ちょうど4時。

1番忙しいのは午前中で、この時間になってくると患者も少なくなって少しだけ落ち着ける。

「樹里さん。今日も来ますかね。あの子」

まめに爪磨きで磨かれたピカピカの爪で鞠が時計を指差した。

「来ないことを祈るけど」

樹里は溜め息をついてもう一口コーヒーを胃に流し込んだ。
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