サイレント
「先生さ、誰にも知られたくない秘密、あるよね?」

樹里は一の言葉に青ざめた。まさか、

「貸してくれるならその秘密、誰にも言わないし、先生が望むなら先生が俺にして欲しいことしてあげるよ」

まさかそんなはずない。一が知るはずがない。
でも、樹里の秘密なんて、ホームページのことと一に対する異常な想い以外、他に思い当たらない。

一は自信ありげに樹里を見下ろしていた。黒く光る瞳が怪しげな色を帯びて樹里を追い詰める。

「……お願い、誰にも言わないで」

絶望的な気分で樹里は言った。
知られたくなかったのに。知られないよう気をつけていたのに。そんなに物欲しげな顔で一を見つめていたのだろうか。

顔から火が出るほど恥ずかしい。

消えてしまいたい。

「俺、口固いから安心して。大丈夫。俺なんかに簡単にお金貸してくれるの先生くらいしかいないし。感謝してもしきれない」

「……」

「今日から俺、本当に先生のためなら何でもするから、何でも言って」

悪魔の囁き。

「俺に金貸したこと絶対に後悔させないから」

違う。間違ってるよ。
後悔するのはきっと一の方。こんなに厄介な女に金なんか借りるんじゃなかったって後悔する。

だって今、お金で一を自分のものにできるなら、いくらだって出す。
そんなことを考えている悪魔が樹里の中で影を潜めている。
< 32 / 392 >

この作品をシェア

pagetop