サイレント
「彼女と何かあった?!」

帰り道、祥子は大悟と一緒に帰らず芹沢を追いかけた。

前を歩いていた芹沢が足を止めて祥子を振り返る。その目は変わらず死んでいた。

「別に、何も」

「嘘っ。何もないって顔じゃないよ。合格したくせに何でそんな暗い顔してんのよ」

私立受験前に祥子は芹沢の彼女から学校を辞めたと聞いていた。

その時の彼女の表情が今の芹沢の顔にダブって見えた。

口止めされていたとはいえ、芹沢に何も話さなかった祥子は罪悪感を感じる。

遠からず芹沢がこんな顔をする日が来ることは予想出来たはずだ。

「彼女と……別れたの?」

夕暮れ時の薄暗い中、闇が芹沢を飲み込んで連れ去ってしまいそうに見える。

「別れてなんかない」

芹沢はそう呟いて早足で歩き始めた。

祥子は小走りでそれを追いかける。

芹沢は足が早かった。走ってもなかなか追いつけない。

家の明かりが増えはじめ、時折車が横を通り過ぎる。そのたびに排気ガスの臭いが鼻をついた。

「きゃっ」

芹沢の背中ばかり必死に追いかけていた祥子は足元にあった石ころに思いきり躓いて派手に転んだ。
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