サイレント
よく幸せは金で買えないと言うけれど、それが正しいとは限らない。

お金がないからこその不幸は間違いなく存在する。

中学の時、父も母もいなくなって、手元に金が無くなっていった。

明日食べるものにも困る恐怖は多分普通の人には計り知れない。

あの極限状態の中では泥棒だって強盗だってしかねない。

それをせずにすんだのは樹里が一に金を貸してくれたから。

自分の立場が危なくなるのをわかっていて樹里は一に手を貸してくれて、好きでいてくれて、優しくしてくれた。

一はそんな樹里の気持ちに胡座をかいていたにすぎない。

だから捨てられた。

樹里に捨てられて、樹里の電話番号が変わり、職場もわからなくなった。

片っ端から色んな学校へ電話をしてみたけれど樹里はいなくて、正直諦めかけていた時、たまたま通り掛かった病院の前でナース服を着て病院に入っていく樹里を見た。
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