サイレント
「ハジメくんは、何か勘違いしてるのよ。多分、困ってる時に私が助けて。それで、まだちゃんと好きな人が出来る前に私と初めて、しちゃったから……それを特別だと思い込んでしまってるだけ」

疲れたように樹里が言った。

「そんな理屈はいいよ。ジュリこそ、親父が好きとか言って。そんなの俺を諦めさせる嘘だろ」

「嘘じゃない」

一は立ち上がると樹里の前に移動した。

樹里は身を守るようにして両腕で膝を抱える。

「もう、告白もしてる」

「……嘘」

「本当」

でも、親父が樹里を相手にするはずがない。
だって樹里は息子である一と付き合っていたし、第一母さんと離婚だってしていない。

親父の口から樹里の話題が出ることもなかった。

「ジュリはどうしたら俺のこと許してくれる?」

「許す?」

「俺にムカついて、嫌いになったんだろ」

一の問い掛けに樹里は眉間に皺を寄せた。
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