サイレント
「さっき触るなって言ったじゃん」

「さっきはね」

「意味わかんないし。俺そんなことしたいわけじゃないから」

腹が立った。これも樹里の作戦のうちかもしれないけれど。

樹里は一に嫌われようとする。

「したくないのに付き纏ってるの?変なの」

「黙れよ」

樹里はようやくワインを手放すと次は冷凍庫からカップのアイスクリームを取り出し、食べながらベッドの方へ戻って来た。

ベッドのすぐ横がベランダになっていて、樹里はガラス扉を開けた。

冷房が効いた室内に生温い風が入ってくる。

樹里はしばらく無言で空を見つめていた。
もう外は真っ暗だった。

「ジュリ」

こっちを振り返って欲しくて名前を呼ぶが、樹里は外を見つめたまま「何」と素っ気なく言う。

「好きです。付き合って下さい」

昔の自分が絶対に言わなかったことを口にした。
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