サイレント
「……どう育てたらあんな子になるんですか」

「さあ?俺はあいつにあれしろ、これしろって特に言わなかったから。嫁も子供をしつけられるタイプじゃないし。勝手に育ってくれたよ」

樹里は水に浮かぶ氷をじっと見つめていた。
カラン、と氷が音をたてて崩れる。

正直なところ、陽平には樹里が何を考えているのかよくわからなかった。

一が好きで好きすぎて陽平の前で泣いた樹里と、今目の前にいる樹里が同一人物とは思えない。

「君は不器用なのかな」

「あなた程じゃありませんけど」

「俺は昔から器用貧乏だ」

「何それ」

樹里がふっと笑う。
普通に笑うとかわいらしい顔になる。まだ20代前半と言ってもおかしくない見た目をしていた。

「一つ聞いてもいいですか?」

しかし樹里はすぐに笑いを引っ込め、またどうでもいいような、全てが面倒だとでもいうような顔に戻った。

「何?」

「自分が癌だってわかった時ってどんな気分だった?」
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