サイレント
冷たい顔で、しらっとそんなことを言う。

「そんな面倒なことしなくても、迷惑なら迷惑ってストレートに突き放したら?」

「何度もそうしてるのにしつこいからこんな回りくどいことしてるんです」

「彼氏でも作れば、さすがに一も諦めるんじゃないの?君がずっとフリーだから一は諦めらんない」

少し意地悪かとも思ったが、痛いところをついてみた。

樹里ももう30手前。結婚の話が出ておかしくない年齢。というか、そろそろ本気で焦らなくてはいけない年齢だ。

「……じゃああなたが私と付き合って下さい」

「無理。不倫するつもりないし、そんな元気もない。第一息子のお古はゴメンだ」

陽平が軽く言った最後の台詞に樹里はひどく傷ついた顔をした。

「君が本気で迷惑って言うなら俺からも一に注意しとくよ。でも、むやみにあいつを傷つけるのはやめてくれ」

俯いてしまった樹里の手を握る。
樹里はきつく拳を握りしめ、何かに耐えているようだった。

「君は可愛いし、本当は優しい良い子なんだと思う。じゃなきゃ一があんなに引きずるわけがない。だからあんまり自分を追い詰めないで」
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