サイレント
しばらく陽平も黙っていると、『バカ』と泣きそうな妻の声が小さく響いた。

「……ごめん」

『謝っテ済まない。ワタシまだ許してない』

「知ってる。けど、一が高校卒業したらさ、また一緒に住みたいんだけど……ダメ?」

陽平はまだ服薬を続けているが、定期受診でも今のところは癌が再発する様子はみられない。

だからって100%安心できはしないけれど。

『そんなの……直接言っテくれナイとわかんナイ』

「ははっ」

妻の拗ねたような物言いに陽平は思わず吹き出した。

「わかった。じゃあ明日そっち行くから」

そう言って電話を切る。

空を見上げた。

夏の夜空に光る星は一つの曇りもなく、輝いていた。
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