サイレント
「俺今日昼からデートだから午前中しかいらんないけど、樹里は今日どーすんの？」

「んー。決めてない」

特別仲のいい女友達も彼氏もいない樹里はいつもこんな調子だった。

たまには一人でのんびり過ごす休日があってもいいかもしれないけれど、ずっととなると寂しくないのだろうか。

寂しくないわけはない。

テツは樹里に朝食を食べさせると終わった洗濯物をベランダに干し始める。

そんなことをしていると珍しく樹里の携帯が鳴った。

洗濯物を干しながら樹里の声に耳を傾ける。

「鞠ちゃん？」

初めて聞く女の子の名前だった。

「今日昼から？私の家？んー。いいよ」

ベランダから戻ると樹里は顔を洗い終えて、化粧を始めていた。

日曜の朝から樹里が化粧をするのも珍しかった。

「何、友達？」

「うん。病院の事務の子。今日暇だからうちに遊びに来てもいいかって」

「ふーん。良かった」

「え？」

「いや、樹里にもそーやって家に遊びに来てくれる子がいて安心した」

素直にそう伝えると樹里は照れたように笑った。
< 353 / 392 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop