サイレント
「……そう」

樹里はそう一言呟いて、キッチンに戻り、マグカップに紅茶を注いでいく。

「病院に来るだけならまだしも……家の前で待ち伏せって、いくら相手があの子でも怖いですよね」

鞠は樹里を気遣うように言った。そんな鞠に樹里は少し可笑しくなって笑う。

「大丈夫。別に私に危害を加えたりはしないから」

「何でわかるんですか?いくら普通の高校生っぽくても今時わかんないじゃないですか。そーゆー事件よくニュースでやってるし」

「そーゆーって、どういう?あの子が私を殺しちゃうとか?」

自分で言葉にしてみてそれはないな、と思った。

一は勢い余って樹里を殺す程馬鹿じゃない。
樹里と一がどんな関係なのか詳しく知らない鞠にとっては有り得そうなことなのかもしれないけれど。

「第一あの子に殺されるくらいならその前に自分で死ぬから」

こっちの方がうんと現実味がある。

「死ぬとか簡単に言っちゃだめなんですよ!」

鞠はムキになって怒った。
いつも冗談ばかり言って一と樹里のことを詮索して楽しんでいる鞠にしては珍しいことだった。
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