サイレント
鞠の真剣な瞳に思わず「ゴメン」と謝る。

「樹里さんが言うと本当に聞こえるから怖いんです」

鞠はそう言ってから暗くなった空気を一掃するようにフォークを振り上げた。

「あーおいしそっ!これ駅ビルで買ったんですけど、私の大好物なんです!やっぱケーキは苺のショートケーキが1番ですよ」

バクバクとおいしそうにケーキを口に運ぶ鞠につられて樹里もケーキを食べた。

甘すぎず、苺の酸味とクリームの甘みが混じって調度いい。
鞠が持ってきてくれた箱の中にはまだケーキが残っていた。

「残りは樹里さん後で食べちゃって下さい。私これでもダイエット中なんで」

鞠がお腹を摩りながら笑う。

鞠は本当に明るい女の子だった。根暗な自分とはまるで正反対で、どこでも裏表なく素を出せるその様が羨ましかった。

樹里は周りの目ばかり気になってどこか他人と一線を引いてしまう。

自分で壁を作って他人を中に入れない習慣が身についてしまっていた。
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