サイレント
「もし帰るときにまだあの子がいたらメールしますね」

ひとしきり喋って、そろそろお開きにしようか、とテーブルの上を片付けていると、鞠はそう言って携帯を手にした。

「あー、別にいいけど」

「いなくても一応メールします。なんか樹里さんずっと様子おかしいし」

にこりと微笑まれて樹里ははっとした。
自分では別に普段と変わらず過ごしていたつもりだけれど、そんな風に見えていたのかと。

「今日は来てくれてありがとうね」

途中で足首を捻挫してしまうんじゃないかという程背の高いピンヒールを履いた鞠に向かって樹里は手を振った。

玄関に立って鞠も手を振る。

「こちらこそ。今日は楽しかったです」

テツの時もそうだけれど、自分の家から人が帰っていくのを見送るのは何となく苦手だった。

一人寂しい部屋に取り残されるような気がして。

だからといってずっと居座られても迷惑な話だけれど。

パタンと玄関扉が閉まり、鞠の姿が見えなくなる。

樹里はベッドに寝転がり、目を閉じた。

ゆっくりと息を吸い、息を止める。
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