サイレント
弟は悪くない。そう頭ではわかっているのに、一の苛立ちは限界に達していて、怒鳴り付けるように言葉を吐くのを止められない。

「金ならもう心配いらないって言ったろ!俺に黙って勝手な真似すんじゃねーよ!」

一は弟の手の中に残っていたおにぎりを取り上げた。

「あっ!」と弟が取り上げたおにぎりに両手を伸ばす。
一は手にしていたおにぎりを手近にあったごみ箱に捨てた。ぐしゃっと生々しい音をたてておにぎりが崩れた。

泣きそうな弟の顔に、ごみ箱の中で崩れたおにぎりに胸が痛む。

弟は一重だけれど大きな目に涙を溜め、まるで悪魔でも見ているかのように表情を歪ませて一を見上げていた。

「何だよその顔。何か言いたいわけ?」

そんな目で、俺を見るな。

「……兄ちゃんひどい。せっかく、兄ちゃんの先生が持って来てくれたのに……」

とうとう啜り泣きを始めた弟はよれたTシャツの袖で涙を拭った。何度拭っても弟の瞳からは大粒の涙が零れ出す。

「先生?」

「この前、家に来た。兄ちゃんの保健室の先生。上手じゃないけど、兄ちゃんと食べてって……」

「……」

「おいしいよ。兄ちゃんは食べないの?食べちゃ駄目なの?」
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