サイレント
拓海は風邪薬の他にゼリーや冷えピタ、スポーツドリンク等を大量に抱えてやって来た。

「それお前が買ってきたの?」

「まさか。ママが持ってけって」

「ふうん」

そういえば、母とはしばらく会っていない。
母がこの家に来るはずもなく、一が向こうに行かない限りは会うこともなかった。

「てゆーかせっかくの休みに悪かったな」

横になったまま冷蔵庫に持って来たものを詰め込んでいる拓海の背中に礼を言う。

「いーよ。俺、兄ちゃんには恩があるし。いつでも呼んでよ」

拓海は振り返らずに言ってから冷蔵庫の扉を閉めるとこっちへ歩いて来た。

冷えピタを一枚投げてよこす。

「恩?」

「ママたちがいなくなった時、兄ちゃん俺に色々してくれただろ。兄ちゃんがいなかったら俺、餓死してた」

「お前一人だったらすぐに他の大人に助けてもらってたから、もっとウマイことやってただろ」

一の皮肉に拓海が笑う。拓海は中学に入ってぐんと背が伸びた。
背が高いのは遺伝。一も他の同級生に比べて背が高い。
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